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紫色の月光

紫色の月光

後編

 自由の女神に亀裂が生じ、その大きな姿が崩壊していく。
 だが、それによって『足場をなくした』状態でも、彼等は銃口から手を放さなかった。

 エリック、マーティオ、狂夜、フェイトの四人は、自身らが生み出した『最終兵器』を決して手放したりはしない。少なくとも、ウォルゲムの完全なる死を確認するまでは。
 
「おいマーティオ! オメー、あの妙な翼で俺たちごとフュージョン・ウェポンを宙に浮かせれねーのか!?」

 エリックが叫ぶが、マーティオは『いや』と首を横に振った。

「アレはサイズがあればこそ出来る荒業中の荒業だ。仮に出来たとしても、大人三人にこんな大砲みたいなデカ物を持って自由に動くようなパワーはない」

 どちらにせよ、サイズがなければ話にならない訳である。
 しかし、こんな事をしている間にもコンクリートの大地向けての落下の旅は始まっている。

「見ろ!」

 狂夜の一言で全員が上空を見上げる。
 すると、其処には上半身の鎧が完全に砕け散り、半裸状態と成り果てているウォルゲムが、自分たちと同じように落下している光景が見られた。

「やった! 奴の鎧を砕いたぞ!」

「いや、まだだ!」

 実際に戦ったエリックは理解していた。ウォルゲムのアーマーは、部分的に残っていればそれだけで機能を発揮する。
 つまり、上半身の鎧を粉砕したところで、下半身の鎧が残っているのでは意味がないのである。

「先輩、もう一発だ! 半分吹っ飛ばせたんだから、もう一発で完全に鎧は消し飛ぶはずだ!」

 ようやく掴んだ勝利のチャンス。
 それを逃さんと敵を睨みつけつつ叫ぶエリック。

 だが、

「無理だ! 足場がない状態では、グレイトにバランスが保てない……!」

 今の彼等は足場がなく、空に放り出されている状態だ。先程の一撃は確かにウォルゲムのアーマーを破壊するには十分な威力があったようだが、その反動はかなりの物である。現に、足場としていた自由の女神がその反動だけで崩れてしまった。

「今度撃ったら……その威力で我々がグレイトにお陀仏しかねない!」

 十分に考えられる可能性である。
 今、支える物がないこの状態で引き金を引いたら、それこそ威力の反動で自分たちがやられかねない。

 しかも、よく見るとフェイトの引き金を持つ手が既に血まみれのボロ雑巾状態と成り果てていた。
 彼女の手が、ただの引き金一発でボロボロになる程に脆い訳がない事を、三人はよく知っている。この事からも、フュージョン・ウェポン、最終兵器五つ分の攻撃威力は、今まで彼等が扱ってきた最終兵器よりも遥かに扱いにくい代物だと伺える。

「なら!」

 エリックは無理矢理フュージョン・ウェポンの融合を解除させるべく、意識を集中させる。その目的は簡単だ。

「何をする気だ、エリック!」

「分離させる! 此処まで来て、奴を仕留めない訳にはいかないんだよ!」

 何しろ、状況は未だにウォルゲムが有利なのだ。この場にイシュ・ジーンと宇宙人の艦隊がある時点で、最大のピンチの条件は揃ってしまっている。


 それは絶対嫌だ。

 絶対に許せん!

 絶対に好きにさせたくない!


「全部の始まりが俺だって言うんなら!」

 直後、フュージョン・ウェポンが光を弾かせつつ、元の状態に分離させる。その中から素早くランスの柄を握ったエリックは、そのままレベル4を発動。正しく風のような勢いでウォルゲム目掛けて飛んでいった。

「キョーヤ、先輩を頼む!」

 すると、今度はマーティオが素早くサイズを手に取り、制御に集中。解読不能としか言いようがない怪しい言葉を呟いた直後、背中から漆黒の翼が出現する。

「マーティオ、何をするつもりだ!?」

「分りきった答えを俺に言わせる気か!? あいつをぶっ殺しに行く!」

 言い終えると同時、彼はそれ以上喋ることはない、とでも吐き捨てるかのように翼を展開。羽ばたかせると、彼は黒の弾丸となって真っ直ぐウォルゲムに突撃していく。

「……先輩、動けますか?」

 その場に残された狂夜は、ソードをガンの二つをとり、手に火傷が出来ているフェイトに話しかける。

「ああ、なんとかグレイトにな……しかし、引き金を引くのはちとグレイトに無理みたいだ」

 見れば、彼女の指先にまで火傷の後が残っており、見るからに痛々しい。こんな状態で引き金を引いたら、いくら彼女とはいえ持たないだろう。しかも、ガンのレベル4は彼女の腕に相当の負担をかける。

「エリック、マーティオ……我等の運命、どうやら飛べる貴様等に託すしかないようだな」

 そういうと、彼はフェイトを抱えた状態で、着地の態勢に入った。

 ファングの力で身体能力が限界以上に高められている人間最終兵器の自分なら、彼女を抱えた状態でも、着地に難はない。

 だが、それでも不安はあった。

「ウォルゲムをどうやって倒す……? 最早、最終兵器の融合は出来ないぞ」








 手段なんて物を考えるよりも、本能が身体を動かしていた。


 エリック・サーファイスはただ純粋にウォルゲムを貫くことしか考えておらず、マーティオ・S・ベルセリオンもまた、ウォルゲムを切裂くことしか考えていなかった。

 故に、二人の間に言葉は要らなかった。お互いに長い付き合いで、何を考えてるのか把握している。その為か、眼を合わせただけで意思疎通は完了してしまっていた。
 まあ、アバウトではあるのだが。

「ふん!」

 猛スピードで接近してくる二つの刃を前に、ウォルゲムは鼻で笑う。例え彼等の武器が強力でも、アーマーがまだ下半身に残っている為に、その矛先が無力であることを知っているからだ。

「最終兵器の性能差を見せ付けられて尚、挑戦してくるか! 馬鹿め!」

 足底の鎧が変質し始め、足の裏から直径大凡30cm程のプレートが出現。それが空で猛烈な回転をし始めたと同時、ウォルゲムの落下運動は急停止し、そのまま空中に留まる。

「生憎、」

 だが、エリックはそれを視界に確認すると、槍の速度をアップ。
 そのまま加速を加えた矛先を、ウォルゲム目掛けて叩き込む。

「諦めは悪いんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 すると、サーフボードの要領で槍に乗っていたエリックは、ランスの柄を蹴り上げ、飛翔。そのままランスのみをウォルゲムに向けて突進させる。

「ぬおりゃあああああああああああああああ!!!!」

 更に、その槍を追い越してマーテイオとサイズが襲い掛かる。
 彼は超高速のスピードで一気に迫り、ウォルゲムの後ろに回りこんでから大鎌を振りかざす。

「挟み撃ちか!?」

 背後に回りこんだマーティオ。正面から飛び込むようにして突撃してくるランス。
 普通なら、ここはアーマーで受け止めて、安全に防御してもいい場面だ。

 だが、今は時間が惜しい。

 今の状況はウォルゲムにとっては非常に喜ぶべき事態だ。最終兵器が全て揃っており、イシュ・ジーンも健在。更には生贄要因として必要不可欠だった宇宙人の艦隊も来ている。
 ここまで理想的な状況は、恐らく二度とあるまい。正に一生に一度の大チャンスだ。
 しかし、その艦隊もネオンの登場と奮闘で、数が少なくなってきている。しかも、要のイシュ・ジーンもネルソンとの戦いが原因で、反応が弱まってきているのだ。

 そもそもにしてイシュの作戦は、大掛かりで派手ではあるが、それだけに弱点も明確にあげることが出来る。

 その一つが宇宙人という存在。彼ら無しでは邪神復活のための生贄が足りなくなり、最終的には失敗する。だが、これは今でなくとも新たな宇宙人襲来を待てばいいだけだ。
 そしてもう一つの弱点であるイシュ・ジーンの破壊。洗脳装置そのものである彼の破壊はつまり、そのまま作戦の破壊にも繋がる訳だが、これも後で修復すれば事は足りる。

 しかし、最大の弱点は存在する。

 それが『イシュ』の崩壊である。

 特に、サウザー、竜神、相澤と言った幹部たちが倒れた今、司令塔であるウォルゲムが破れたら、イシュは混乱し、自然と崩壊していってしまうだろう。

 せめて竜神か相澤のどちらかが残ってくれていれば話は別なのだが、過ぎたことをどうにかしようにも、自分は生き残らなければならないのだ。元より、自分はその為に未来から来たのだから当然といえば当然だ。


 故に、彼は行動する。


 鎧で受け止めるのではなく、自身を早回しして一気に決着を着ける事を、だ。

「勝負だ、泥棒ども!」

 通常よりも何倍もの速度でウォルゲムの拳が動き出す。
 だが、

「させるかよぉ!」

 真後ろからマーティオの不気味な笑い声と共に、無数のチェーンがウォルゲムを縛り付ける。それは正に一瞬の出来事で、硬いチェーンに束縛されたウォルゲムは身動きが出来ない。

「何!?」

「馬鹿め、最終兵器が見た目だけの武器じゃないことはオメーもよく知ってるだろうが!」

 見れば、サイズの柄が無数に分裂しており、その柄の一つ一つが鎖で連結されている。そして、その鎖がウォルゲムを捕獲していた。
 更に、マーティオの手には『大』の字がつかない普通の『鎌』が握られている。

「鎖鎌か……!」

「振り上げた瞬間に油断しやがったな、鎧野朗。これでもう自由にさせねぇ!」

 鎖鎌にしては随分と特殊だが、それでも動きを封じられたことには変わりがない。
 だが、アーマー自体の能力は攻撃威力の無力化だ。このまま突撃してくるランスや、マーティオの至近距離鎌攻撃も無力化して見せようではないか。

 だが、そんなことを考えているのを見透かされていたのか、後ろのマーティオが不気味に呟き始める。

「ところで、なんでアーマーって、そんな面倒なレベル4があるんだろうなぁ?」

「何?」

「考えてもみろ。アーマーが威力吸収なんてことをやってのけるのに、なんでクロックアップもどきみたいな機能をつける必要がある? 確かに攻撃においては便利かも知れねぇが、防御に関しては必要ねーはずだ」

 確かに、言われてみればそうだ。
 この鎧は装着していれば、例え鎧で覆われていない箇所への攻撃でも無力とすることが出来る。

「答えはシンプル。さっきのフュージョン・ウェポンが証明している……アーマーの威力吸収は、限界がある」

「!」

 その限界を超えた有様が、上半身の鎧を全て吹っ飛ばされた現状である。
 では、そのダメージ吸収限界を超えてしまった今のアーマーで、ランスやサイズの一撃を受け止めることが出来るのだろうか?

「しかも、今は下半身しか鎧はない……案外、軽くぶち抜けるかもしれねーな」

 そういうと、マーティオは動けないウォルゲムの喉にサイズの曲刃を突きつける。
 同時に、ランスもいよいよ目の前に迫ってきた。

「さあ、喉と腹。どっちで死ぬ?」

 答えを聞く前に、マーティオの手は動いた。







 貞子ファッションことイシュ・ジーンによる拘束は未だに続いていた。
 原材料が粉とは思えない強力な力は、容赦なくジョン・ハイマン刑事とポリスマンの二人を締め上げ、身体に悲鳴を上げさせる。

「ふん! ふん!」

 ネルソンことポリスマンは力が自慢だが、そんな彼でもこの粉の拘束具は簡単に破壊できなかった。ナックルと融合した、彼の『ポリスマン』としての超人的パワーでも、ビクともしないのである。
 だが、それはあくまで現在の状態、ポリスマン・パワードの場合では、の話だ。

「ならば、見せてやろう! 本気の本気って奴をなああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 ポリスマンが気合を入れ始めると同時、彼の青のボディーが、腹から身体全体に浸透するかのようにして金色に変色していく。更に、足に装着されていたハイパーシューズも解除され、通常の歩く足へと戻る。
 ポリスマン最強にして最後の形態。ポリスマン・ファイナルへの変身である。

「行くぞ、貞子服! このポリスマン・ファイナルが、全力で貴様を吹っ飛ばしてやる!」

 直後、力任せに粉の拘束具を引きちぎり、脱出。
 イシュ・ジーンが反応し、新たな一手を繰り出す前にダッシュ。彼が新たな粉の武器を精製している間に、ポリスマンは一気に距離を詰める。

「遅い!」

 声に反応し、すぐ真下に顔を向ける。
 
 するとどうだろう。

 そこには既に、太陽のような輝きを放つ右拳を構えている金色の男の姿があるではないか。

「!!!!!!!!!」

 眼を見開くイシュ・ジーン。
 だが、対処しようにも、何もかもが遅すぎる。

「超、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっさああああああああああああああああああああああああああああああああああつ!」

 拳が真上に飛び出す。
 まるでロケットのように豪快に天に向けて飛び出し、敵の顎という名の雲を突き破らんと前に進む!

「シャイニング・あっぱあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 光のアッパーカットがイシュ・ジーンの顎を打ち抜く。
 爆音のような豪快な衝撃音と共に、その白の姿はゆっくりと宙に舞い、そして地に落ちた。

 同時に、彼の身体中から溢れていた粉の勢いが急停止。
 代わりに、口から溢れんばかりの血が、アッパーの衝撃で抜けた歯と共に溢れ出していった。

「く……!」

 だが、ポリスマンも同時に崩れ落ちる。
 何事か、と思いジョンが駆け寄ると、ポリスマンの変身が解け、元のネルソンへと戻った。

「警部、大丈夫ですか!?」

「ああ、どうやら一撃を叩き込むのに無理をしすぎた」

 あの元気印のネルソンが、かなり疲れきった顔をしている。始めてみせるその表情と疲労を前に、部下であるジョンは不安を隠せない。

「ジョン、奴は? 貞子服はどうなった?」

「え?」

 不意に、ネルソンがそんな事を言ってきた。

「さ、さっきのアッパーカットで倒したのでは!?」

「そうあって欲しいが、奴の生命力は異常だ。もしかしたら、打撃だけでは倒せない相手なのかもしれん」

 まさか、とジョンは呟く。
 ネルソンのパンチは、生身でも軽く鉄をへこませるという、恐るべき超人技を誇っている。そんな威力を更に高めたアッパーを食らい、まだ生きているというのか。

「いかん!」

 そんな思考を一斉にカットさせるアルイーターの叫び。
 それに反応し、二人が同時に振り向くと、そこには血まみれになりつつも二人に飛びかかってくる、イシュ・ジーンの姿があった。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 確認すると、身体は勝手に動いていた。
 ネルソンは近くにいたジョンを片手で吹っ飛ばし、襲い掛かってくるイシュ・ジーンに押し倒されたのである。

「け、警部!」

 今のネルソンは、両手で必死にイシュ・ジーンの両拳を受け止めている状態だ。だが、疲労しているネルソンの方が、僅かではあるとはいえ圧されている。

「!」
 
 しかも、相手の血まみれの口内に徐々に粉が収集されていき、何かを精製していくではないか。

「むお!? ドリル!」

 口内から粉のドリルを精製し終えたイシュ・ジーンはそれを猛烈な勢いで回転させる。原材料が粉とはいえ、先程の拘束具の強度を考えたら、このドリルもかなりの威力を誇っているはずだ。

「む、っぐぐぐぐぐぐぐぐ!」

 残りの力を振り絞ってイシュ・ジーンを払いのけようとするが、弱っている今の状態ではビクともしない。
 更に、そんなネルソンに死の宣告を叩きつけるかのようにして、ドリルが顔面に迫る。

 だが、次の瞬間。


「!?」


 乾いた銃声と共に、イシュ・ジーンが横に吹っ飛ぶ。
 更にもう一発。また一発と、次々に放たれる弾丸。同時に、次々と身体に穴が開くイシュ・ジーン。

 五発目の銃声が鳴り終えると同時、イシュ・ジーンは眼を見開いた状態で、完全に機能を停止していた。人間で言うところの『脳』がある場所。即ち『頭』に二発も穴が開いているのだから、当然といえば当然のことである。

「頼むから、もう動かないでくれよ……頼むから」

 ふと見れば、銃声のした方向には、拳銃を構えた姿勢のジョン・ハイマンがいた。
 一行に動き出す気配がないイシュ・ジーンを確認すると、彼は力が一気に抜けたようで、へなへなとその場に崩れ落ちる。どうやら、この一瞬だけでかなり体力を消耗したようだ。精神的にもよくない。

「よくやったぞ、ジョン!」

 すると、そんな彼の肩を思いっきり叩きながらネルソンが言う。
 しかし、精神的に疲れきったジョンは、ネルソンの一発がかなり効いたようで、『あいたぁー!』とか言いながらその場で悶えてしまっていた。

(だが、まだ解決した訳ではない)

 アルイーターは、険しい顔で思考を回転させていた。
 確かにこの場で洗脳装置である、イシュ・ジーンは倒れた。だが、彼が噴出してしまった粉は、まだこの近辺の大気に紛れているはずだ。それに、壊れてしまったのなら、また新しい物を用意すれば事は足りる。

「やはり、大ボスを倒さないと意味はないぞ……どうなっている、エリック・サーファイス」







 マーティオは思いっきり手を動かし、ウォルゲムの喉を切裂こうとしているが、何度やってもサイズの曲刃は喉を切裂けずにいた。
 同時に、ランスのロケットのような体当たりも、ウォルゲムの腹に当たるも、『皮膚』という名の鎧に阻まれて奥に進もうとしない。

「どうやら、アーマーの能力はまだ健在みたいだ。少なくとも、最終兵器単体分の攻撃には耐えられ……っ!?」

 ウォルゲムは余裕と言わんばかりの笑みを浮かべてマーティオに言うが、途中で何かに驚いたかのような声を上げる。

 何事か、と思い、マーティオが覗き込んでみると、

「!」

 ウォルゲムの腹。そこで動きを停止していたはずのランスが、突然猛回転を始める。それはアーマーにより、強固な鎧となっているウォルゲムその物を貫かんとする、槍のドリルだったのだ。
 しかも、僅かではあるがウォルゲムの肌が傷つき始めており、うっすらと血が滲んで来ている。

「賭けたのは俺の意地! 貫きたいのはお前の存在!」

 先程、上空にジャンプしたエリックが急降下してくる。
 しかも、右拳を握り締め、何時でも突き出せるような体勢であった。

「限界を超えて見せろ、ランス――――!」

 エリックの拳が前方に突き出される。
 だが、其処にあるのは敵の顔面ではない。ランスの柄尻である。

「ま、まさか―――!」

「ふん! 好き勝手やってくれるぜ!」

 マーティオは悪態をつきつつも、鎖鎌を解除してウォルゲムから離脱。
 この瞬間、ウォルゲムはサイズの鎖から解き放たれた訳だが、

(ランスが既に皮膚と接触している! 今、『早回し』をしても――――避けれない!)

 この状態で下手に動けば、大怪我をするのは自分だ。何しろ、矛先は既に肉体への進入を始めているのだ。此処で横に動けば、その矛先がその分身体に食い込むことになってしまう。

「ならば、止めて見せるのみ!」

 動けるようになった両手でランスの柄を握り、その回転を何とか止めようとするウォルゲム。
 だが、エリックも負けじと、更に加速の点火を行う。

「貫けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 右の拳が、ランスの柄尻に直撃。
 直後、ランスの回転の速度が更に加速。更に前に押し出そうとする『力』が加わってきはじめ、ウォルゲムの力を圧倒する。

「な、―――――――!?」

 ウォルゲムの両手のパワーを軽く押しのけたランスの回転は、更に加速!
 
「飛び込め……狙いが腹じゃあ、俺の気が収まらない!」

 その光景を、落下しつつも見つめるエリック。
 だが次の瞬間、彼は叫んだ。

「狙いは奴の心臓だ……! 今度こそ貫いてやるんだ」

 彼のぎらついた目は、標的の更に上を行く『真の標的』だけを睨んでいた。先程は竜神とウォルゲムが同時に出てきたために、集中したつもりでも、標的を絞りきれずに終わったが、今度こそは上手く行く。

 根拠はないが、『自信』がある。
 理屈でもなくて、肌で感じるこの感覚。
 

 そうだ、今ならあいつを貫ける!


「ぶち抜けええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 アーマーは、外部からの攻撃には鉄壁の防御力を誇る、守りの最終兵器だ。
 だが、ランスは内部から敵の核を射抜く貫通力を誇る、攻めの最終兵器である。

 しかし、世の中は最強の矛と最強の盾の存在を、『矛盾』の言葉で済ませてしまう。

 ならば、最強の盾すら貫いて、最強の矛をあの男の心臓にお見舞いしてやろうではないか!

「飛び込め、異次元の扉へ!」

 直後、ドリルのような動きで皮膚にダメージを与えていたランスの矛先が、何の前触れもなく突然出現した、黒い小さな穴の中へと吸い込まれていった。

「何!?」

 見たこともない現象を前に、戸惑いを隠せないウォルゲム。
 だが同時に、言葉にならない究極の痛みも味わう。

「!!!!!!!!!?」

 噴水のように口内から溢れ出す真紅の血液。そして同時に、ウォルゲムの胸に巨大な穴が出現。
 まるで見えない何かに貫かれたかのようにして出来たその穴は、内から輝かしい光を放ち始めた。

「!」

 直後、ウォルゲムの貫かれた身体が、光となって爆ぜる。

 同時に巻き起こる凄まじい轟音! 爆発! 衝撃!

「のああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」

 カノンの時とは比べようのないその現象を前に、空中で落下中のエリックは、ただぶっ飛ばされるしかなかった。
 だが、何もしないまま吹っ飛ばされる訳にはいかない。

「生きる! 生きるぞ俺はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 この場面。

 エリックがよく見るアニメやゲームの主人公なら、死んででもお前を倒す、とか言いつつ、『ああ、俺も終わりか』的な事を言ってからプロローグを迎えるに違いあるまい。

 だが、エリックはそれを拒んだ。

 彼は我武者羅に生きることを望み、自由に生きることを望んで、そして何よりも仲間と共に生きることを望む男だった。

 例え生き恥と言われようが、間接的に人類を破滅へと追い入れた張本人と言われようが、馬鹿でクズでどうしようもないオタクと言われようが、泥棒と罵られながら警部に追い掛け回されようが、どうでもいいのだ。


 ただ、彼は今の生活が好きなだけなのである。


「戻れ、ランス!」

 その掛け声と共に、自信の右手に光の粉が収集。一瞬の内に槍の形を成していき、持ち主の手中に納まる。

 だが、彼はその柄を握ると同時、大きく身体を大の字にし、空中で叫んだ。

「いいいいいいいいいいいいやったあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 勝ったぞクソッタレええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 その歓喜に満ちた喜びの叫び声は、瞬く間に戦いの場にいた者達の耳に届き、同時に、それぞれの笑顔を浮かべさせる、一種の魔法の言葉だった。








「よお、好きに暴れたな。この馬鹿」

 コンクリートの上で大の字になって寝転がっていると、マーティオが自分を見下ろして来た。相変わらずの無愛想な目つきだが、口元が微妙に逆さへの字になっているところを見ると、この男なりに喜んでいるようである。

「いやー、終わったね。エリック、ご苦労さん」

 その横には、眼鏡をかけて比較的穏やかになった狂夜がいる。何かの衝撃でレンズにヒビが入ったようではあるが、右のレンズが無事なためか、何時もの本気モードにはなっていない。

「グレイトだ、エリック。ミラクルを通り越したグレイトだったぞ」

 更にその横では、フェイトが笑顔でこちらを見下ろしてきている。フュージョン・ウェポンの反動で受けた火傷の痕は未だに残っており、それだけが本当に痛々しい。それ以外が輝いているんだから、更に惜しい気になれる。

「あー……疲れた疲れた」

 大きく背伸びをしながら、上半身だけ起き上がるエリック。
 
「でも、やっと終わったんだ……やっt――――――痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

 感慨深げに語りだそうとしたエリックだったが、横から伸びてきたか細い手によって容赦なく頬を抓られる。

「……勝手に、終わりにしないでね?」

 誰かと思って見てみれば、そこにはあの雪月花・ネオンが妙に怒った顔でこちらを見ている。シチュエーションとしては望む所な展開なのだが、空気がちょっと悪いのでそこら辺は自重しておく。

「どうします、あれ?」

 ネオンが上空を指差すと、其処には、

『ジェノバ軍の破壊力は宇宙1-!』

 とかスピーカーで喋りながら、宇宙人の皆さんが容赦なく空から攻撃しまくっていた。
 どうやらネオン一人では、流石に宇宙人の艦隊を一人で撃退するのは不可能だったようである。
 邪魔がいなくなったジェノバ将軍は、今までの鬱憤を晴らすかのようにして街に攻撃を仕掛けまくっているのだ。全く持って空気を読んでいない。

「あー、くそ。空気を読まない宇宙人め!」

 そこでエリックの思考は一旦停止する。
 宇宙人といえば、身近にこの状況を何とかしてくれそうな奴がいたような気がするのである。

「あー、そういえばアルイーター何処行った!? あいつなら何とかしてくれんじゃねーのか!?」

「そのつもりではあった」

 不意に、後ろから声をかけられた為に、驚いて飛び跳ねるエリック。

 改めて振り返ってみると、そこにはネルソンに肩を貸す形で、アルイーターがいた。その横には、ジョンも身体を支えている。どうやら、この戦いで一番の重症を負ったようだ。

 だが、此処はそれでも頑張ってもらわないと困る。
 対応できるであろう最終兵器所持者は、全員イシュとの戦いで疲れきっており、しかもジョン刑事一人でどうこう出来る相手ではない。

「だが、ジェノバ将軍は一旦行動を開始したら止まることを知らん。同階級である私が何を言ったところで、奴は地球侵攻を止めないだろうな。断言できる」

「いや、断言されても困るんだよ」

 全員に睨まれる形でリンチを受けたアルイーターは、思わずうぐっ、と唸ってしまうが、無理な物は無理なのである。

「さっきからコールしてるが、ジェノバは一向に出ない。ああいう男なのだ!」

「ああ、もう! じゃあ、他に方法はないのか!?」

「あるといえばある」

 アルイーターの思わぬ即答に、派手にずっこけるエリック。
 だがマーティオには、それが出来ないのだ、という予測が出来た。

「だが、出来ない……理由は?」

 うむ、と頷いてから話し出すアルイーター。

「将軍より上……つまり、王族から伝わる強制通信コードというのがあってな。代々王族に伝わる緊急連絡手段なのだが、これを使えば流石のジェノバも対応するしかあるまい……しかし、流石に王族のコード。私では内容が分らん」

 そういいながら、その連絡用手段である腕時計を見つめるアルイーター。
 ここに個人コードを入れることで、彼等は通信を行う訳だが、今回はその王族のコードというものを入れて、ジェノバに通信しなければ話にならないのである。
 ぶっちゃけると、手段がないのと殆ど同じだ。王族のコードを調べる時間がない。

 しかも、エルウィーラーの軍事技術は地球のそれと比べ、遥かに高い。まともに戦争をして、勝てる見込みなんてないのだ。

 

 だが、次の瞬間。



 アルイーターから無理矢理腕時計を自身の方向に寄せ、何かに取り付かれたかのようにして操作をし始める人間が一人いた。

「せ、先輩?」

 火傷の痛みに耐えながら、腕時計を弄りまくるフェイト。
 すると、腕時計から野太い男の声が響いてくる。

『はっ、こちらジェノバ将軍であります! ご命令は!?』

 全員がその声に反応するよりも早く、彼女はジェノバに言い渡す。
 
「ジェノバ将軍。至急、地球侵攻を止めたまえ。そして母星に帰るのだ」

『は? ……も、申し訳ありませんが、どちらさまで?』

 突然の命令。
 そして、聞いたことがない声に戸惑うジェノバ。
 
 だが、フェイトは容赦なく言い放つ。

「私は、エルウィーラー皇帝、ハブソール・レ・メデュラの一人娘、リミアール・ラ・メデュラである!」

 その瞬間、彼等の世界が停まった。
 
 だが同時に、新たな世界が動き出した瞬間でもあった。






 続く





次回予告


ジョン「恐るべき新たな敵の不適な挑戦を受け、マーティオと狂夜は死んだ! 悪魔の惑星、ブラックスターから謎の円盤が地球侵略に飛び立つ!」

アルイーター「君たちが愛するポリスマンことネルソンは!? 嘗てエリックたちと関わった仲間たちの運命は!?」

カイト「エリックと俺に戦いを挑む新しい敵、円盤生物シルバーブルーメの正体とは何か!?」

フェイト「次回、『最終兵器全滅!? 円盤は生物だった!?』を、皆で見よう!」














































































































エリック「いやいやいやいやいや! 本当の次回は『団長、再び!』。勝手に殺すな! つーか混ぜるな! それ以前に勝てる気しねーぞ!」




第三十七話へ


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